今週の一枚(11/12)
<物事は、人が思つたり、言つたりすることの2倍かかる>
「ドラッカーとの対話」小林 薫著 第4部 ドラッカーのキーワード20より
ドラッカーは自分の主張なり提言を「原則」と叫ぶことはあっても、「法則」などと呼んで絶対視することはない。でも、昔、ドラッカーが私に教えてくれた法則が一つだけあった。それはユーモラスに述べたものとはいえ、かなりの”実践的”真理を合んでいるルールであった。 それが、この「物事は二倍かかる」との大原則である。これは別に科学的な裏付けがある法則ではなくて、ドラッカーが時折行う一種の”断定的叙述”と言えるものの一つである。この言葉をドラッカーから聞いた当時、世間では、ピーターの法則として「悪いことは必ずもっと悪くなる」とか、「役人の数は仕事の量と関係なく増える」「降るときはいつも土砂降り(泣きっ面に蜂)」とか、「人は無能のレベルまで昇進する」といった擬似法則が何かと流行ったときだった。あるとき、ドラッカーは「小林君は『ドラッカーの法則』というのがあるのを知っているか」と尋ねてきた。不思議そうな顔をしていると、そのあとドラッカーは、「事柄は当人がこれだけかかると言っている時間の二倍かかる」とのたもうたのである。 なるほど、これは部下やほかの人々が所要時間や見込み時問について言ってきたときに、この倍を心の中で予期していれば、遅れたとか、裏切られたとか、約束を破ったなどとカリカリしなくてよいので、まことに役立つ実際的なガイドラインだと思わないだろうか。また、逆に自分が設定する締切りやターゲット時間に関しても、甘く見積もったりするのを事前に防ぐ妙法でもある。従ってお互いの精神衛生上、大変によろしいルールだといえるのである。 時間管理については、かねてドラッカーは、人問を貴重な資源として扱い、そのためには・集中化とか、コマギレ分散化の排除などをすすめることに相当な関心を抱いているが、このドラッカーの法則はいかにもドラッカーらしい現実味のある提言であるといえよう。 これは、また別の場でのドラッカーの、「われわれ人間は、たいていの場合、白分の能カや自分の重要性を、過小評価するよりは過大評価しがちである」という発言にも関わるものである。 さらにこれは、「マネジャーは、非常に効果的な人ですら、いまだ数多くの不必要な、そして非生産的な仕事をしている」という洞察にも関係してくる。そして、「ドラッカーは自分がそうだと思い込んでいる主観的な時間の使い方と、実際に調べて、見て、判明する客観的な費やし方との間には、非常に大きなギャップがある」ことをつとに指摘しているが、そのことにも関連している。 何ごとにも、すぐに安易に飛びっきやすい筆者などは、このドラッカーの二倍の法則ではまだ不十分で、少なくとも三倍くらいかかると考えるべきかな、などと正直思っている。 その昔、リコーの創業者の市川清が、「アイデアを生むのは一、それを企画にまとめるのにはその二倍、実行するには百倍の時間とエネルギーがかかる」と洩らしてくれたのをここで想起せざるを得ない。 |